愛してる
これは一人の母親が、大切で大好きな、たった一人の家族を愛した物語。
雨が降っている。
太陽と月が顔を隠したように空は雲に覆われて…
本当は、いつもなら、こんなことは思わないだろう。
でも
「ずっと雨が降ってればいいのに」
まだ、今だけは、この天気が続いていればいいのに。
そんなことを思いながら、カーテンを閉める。
時計はそろそろ寝る時間を差していた。
「マリー、そろそろ寝る時間よ」
たった一人の家族、娘のマリーをベッドに横にさせる。
そして、今では日課になった絵本の朗読をする。
ふと娘に目をやると、目から涙を流していた。
「マリー!?どうしたの?」
娘を抱き寄せ、頭を撫でる。
「眠れないよ…」
「大丈夫、大丈夫。そのうち眠くなるわよ、それまで絵本を読んであげるから」
「わかった…」
泣き止んだようで、再び絵本を読み始める。
絵本では、一人の少女が一人寂しく家で暮らしている話だった。
この娘には絶対にそんな寂しい思いはさせたくない。
そんなことを考えているうちに、今日の分は読み終わってしまった。
「明日もまた読もうね」
そう言って栞を挟んで、娘の方をみると、目を瞑って静かに寝息を立てていた。
少しずれている布団をかけなおす。
「おやすみ」
「ねぇ、ママ、外に出たいよ」
いつもマリーに言われる言葉。
この言葉を聞くたびに胸が苦しくなっていく。
「ごめんね、ママはマリーのことが嫌いな訳じゃないのよ」
そして毎回このずるい言葉を吐く。
都合がいいなんて分かってる。
ごめんね、ごめんね。
あなたにはまだ話してあげられないけど、
「人と目を合わせちゃダメよ」
この言葉で私は娘を縛ってしまった。
でもそれには理由があるの。
いつか世界を、その目で好きになる様に。
雨が降っている。
雨が止んだら、
将来、この娘はどんな風に生きていくんだろう。
誰かに恋をして、そして仲間や家族を作って。
とてもとても大切な人ができて。
その人の横でいつまでも笑って生きていくのかな。
「楽しみ」
いろいろ想像してしまうと、自然と口元に笑みが浮かぶ。
寝ているあなたは、楽しい夢を見ているのか嬉しそうな顔して寝息を立てている。
ふと昔のことを考えた。
いつも父と二人で母の帰りを待っていた。
母は終わらないセカイを作ったと言っていた。
それから何十年も経って、私も恋を知った。
彼がいつもそばにいてくれることで、私はこの目でこの世界を愛していける。
でも彼は私を置いて行った。
仕方がないことなのかもしれない。
だけど私はやっぱり、この世界を憎まずにはいられなかった。
雨が止んだ。
あの娘は嬉しそうな顔をしている。
「遊んでいいのは家の近くだけよ、あまり遠くにはいかないでね」
そう言うと、嬉しそうにうなずくあなたを見ると、こっちまで嬉しくなる。
私は、彼を奪ったこの世界が憎かった。
けど今はそれ以上に、あの娘がいるこの世界が大好き。
庭からは楽しそうな声が聞こえている。
それを聞きながら、本を読むことにした。
昨日の夜にあの娘に読んであげた物語の続きが気になって。
本棚にあるその本に手をかけると、本来聞こえてはならないはずのものが聞こえた。
「マリー!?」
すぐに家を出ると、想像でも妄想でも空想でもあってはならないような光景が目に入った。
二人の少年が、自分の娘に暴力を振るっている。
その現実が信じられない。
そう思いつつも体は勝手に反応していた。
近くにあった石を一人の少年に投げつける。
それはきれいな放物線を描いて、少年の頭に直撃した。
少年は簡単に倒れてしまった。
すぐにマリーに駆け寄って抱きしめる。
さっきまでの嬉しそうな顔が嘘かのように涙と血でぐちゃぐちゃになっている。
すると、もう一人の少年が近くにあった木の棒を持って襲いかかってきた。
近くには反撃できそうなものはない。
これだけは使いたくはなかった。
これだけは最後まで使いたくなかった。
でも、私のたった一人の家族を失うわけにはいかない。
これ以上寂しい思いはしたくない。
目を覚ました。
体が動かない。
顔に水滴が落ちてきた。
マリーが泣いている。
ダメ。
こんな雨はいらない。
すぐに止んで。
「マリー…」
「ママ!!死んじゃやだ!」
愛してる…
ごめんねじゃなくて。
愛してる。
それを伝えたかった。
でも私の口はもう動くこともできなかった。
少し眠くなってきたな。
今日は絵本を読んであげられなかったね。
また明日にしようね。
それまでは。
おやすみ。
ずっと雨が降っていたらいいのに
晴れたらきっと
あなたは外に出たがってしまう
でも今はまだ
外に行ってはいけないから
そう、今はまだ
目を合わせちゃダメだよ
季節が巡って
大きくなったあなたが
いつか世界を
その目で好きになるように
マリー
愛してる…
本を閉じる。
「マリー!晩御飯ができたっスよ!ってなんで泣いてるんスか!?」
「う、うん…ちょっと…。大丈夫」
目から流れる雨はしばらく止みそうにない。
でも、あなたがいることで私は笑うことができる。
大好き、ありがとう。
ある一人の少女が、
たった一人で暮らしていました。
すると、ふいにノックが聞こえて…
少年がその家の扉を開きました。
少女はもう寂しくありません。
おしまい
雨が降っている。
太陽と月が顔を隠したように空は雲に覆われて…
本当は、いつもなら、こんなことは思わないだろう。
でも
「ずっと雨が降ってればいいのに」
まだ、今だけは、この天気が続いていればいいのに。
そんなことを思いながら、カーテンを閉める。
時計はそろそろ寝る時間を差していた。
「マリー、そろそろ寝る時間よ」
たった一人の家族、娘のマリーをベッドに横にさせる。
そして、今では日課になった絵本の朗読をする。
ふと娘に目をやると、目から涙を流していた。
「マリー!?どうしたの?」
娘を抱き寄せ、頭を撫でる。
「眠れないよ…」
「大丈夫、大丈夫。そのうち眠くなるわよ、それまで絵本を読んであげるから」
「わかった…」
泣き止んだようで、再び絵本を読み始める。
絵本では、一人の少女が一人寂しく家で暮らしている話だった。
この娘には絶対にそんな寂しい思いはさせたくない。
そんなことを考えているうちに、今日の分は読み終わってしまった。
「明日もまた読もうね」
そう言って栞を挟んで、娘の方をみると、目を瞑って静かに寝息を立てていた。
少しずれている布団をかけなおす。
「おやすみ」
「ねぇ、ママ、外に出たいよ」
いつもマリーに言われる言葉。
この言葉を聞くたびに胸が苦しくなっていく。
「ごめんね、ママはマリーのことが嫌いな訳じゃないのよ」
そして毎回このずるい言葉を吐く。
都合がいいなんて分かってる。
ごめんね、ごめんね。
あなたにはまだ話してあげられないけど、
「人と目を合わせちゃダメよ」
この言葉で私は娘を縛ってしまった。
でもそれには理由があるの。
いつか世界を、その目で好きになる様に。
雨が降っている。
雨が止んだら、
将来、この娘はどんな風に生きていくんだろう。
誰かに恋をして、そして仲間や家族を作って。
とてもとても大切な人ができて。
その人の横でいつまでも笑って生きていくのかな。
「楽しみ」
いろいろ想像してしまうと、自然と口元に笑みが浮かぶ。
寝ているあなたは、楽しい夢を見ているのか嬉しそうな顔して寝息を立てている。
ふと昔のことを考えた。
いつも父と二人で母の帰りを待っていた。
母は終わらないセカイを作ったと言っていた。
それから何十年も経って、私も恋を知った。
彼がいつもそばにいてくれることで、私はこの目でこの世界を愛していける。
でも彼は私を置いて行った。
仕方がないことなのかもしれない。
だけど私はやっぱり、この世界を憎まずにはいられなかった。
雨が止んだ。
あの娘は嬉しそうな顔をしている。
「遊んでいいのは家の近くだけよ、あまり遠くにはいかないでね」
そう言うと、嬉しそうにうなずくあなたを見ると、こっちまで嬉しくなる。
私は、彼を奪ったこの世界が憎かった。
けど今はそれ以上に、あの娘がいるこの世界が大好き。
庭からは楽しそうな声が聞こえている。
それを聞きながら、本を読むことにした。
昨日の夜にあの娘に読んであげた物語の続きが気になって。
本棚にあるその本に手をかけると、本来聞こえてはならないはずのものが聞こえた。
「マリー!?」
すぐに家を出ると、想像でも妄想でも空想でもあってはならないような光景が目に入った。
二人の少年が、自分の娘に暴力を振るっている。
その現実が信じられない。
そう思いつつも体は勝手に反応していた。
近くにあった石を一人の少年に投げつける。
それはきれいな放物線を描いて、少年の頭に直撃した。
少年は簡単に倒れてしまった。
すぐにマリーに駆け寄って抱きしめる。
さっきまでの嬉しそうな顔が嘘かのように涙と血でぐちゃぐちゃになっている。
すると、もう一人の少年が近くにあった木の棒を持って襲いかかってきた。
近くには反撃できそうなものはない。
これだけは使いたくはなかった。
これだけは最後まで使いたくなかった。
でも、私のたった一人の家族を失うわけにはいかない。
これ以上寂しい思いはしたくない。
目を覚ました。
体が動かない。
顔に水滴が落ちてきた。
マリーが泣いている。
ダメ。
こんな雨はいらない。
すぐに止んで。
「マリー…」
「ママ!!死んじゃやだ!」
愛してる…
ごめんねじゃなくて。
愛してる。
それを伝えたかった。
でも私の口はもう動くこともできなかった。
少し眠くなってきたな。
今日は絵本を読んであげられなかったね。
また明日にしようね。
それまでは。
おやすみ。
ずっと雨が降っていたらいいのに
晴れたらきっと
あなたは外に出たがってしまう
でも今はまだ
外に行ってはいけないから
そう、今はまだ
目を合わせちゃダメだよ
季節が巡って
大きくなったあなたが
いつか世界を
その目で好きになるように
マリー
愛してる…
本を閉じる。
「マリー!晩御飯ができたっスよ!ってなんで泣いてるんスか!?」
「う、うん…ちょっと…。大丈夫」
目から流れる雨はしばらく止みそうにない。
でも、あなたがいることで私は笑うことができる。
大好き、ありがとう。
ある一人の少女が、
たった一人で暮らしていました。
すると、ふいにノックが聞こえて…
少年がその家の扉を開きました。
少女はもう寂しくありません。
おしまい