- a Stagehand actor -Season.1
××年××月××日
地球が終わる。
丘の上から街を見下ろす。
街は火の海になっていた。
何故こんなことになったのか。
なにが原因なのかはわからない。
昨日まではこんなことになるとは思っていなかった。
あと数分したら俺も火の海に飲み込まれるだろう。
さて、寝ようか。
疲れたよ。
目を閉じる。
『まだ寝るのは早いですよ、目を覚ましてください』
誰だこんな時に、あぁ、あの声か…
もう寝かせてくれ。
どうせ死ぬんだ。
すると、突然手を引かれた。
温かい。
ここまで来るときに感じたことのない温かさ。
一人だった。
寂しかった。
目を開ける。
- a Stagehand actor -
開幕
「おはよう」
目を覚ます。家には誰もいないが、朝の挨拶は欠かさない。寂しいな俺。
田舎から都会に来て独り暮らし。
高専生生活をエンジョイしている。
エンジョイの部分は嘘だが。
今は夏休みなのでどうでもいい。
といっても夏休みなのに外も出ずに不健全な毎日。
ちなみに今の時刻は昼の12時、そういうこと。
「とりあえず朝ごはん…いや、昼ごはんか」
何を食べようか、『TKG』でいいかな、簡単だし。
ようするに卵かけごはんだ。
「TKGしゃいこ~~いただきます。」
寝起きのテンションです。
とりあえず、TKGを食べている間、PCを起動させておく。4台。
1つはツイッタやらネット用、残り3つは作業用だ。
PCのFanによって部屋が熱気に包まれていく。
「暑い、暑すぎる…これは暑いってレベルじゃないぞ、熱い!」
卵かけごはんを食べ終わって食器を片づける。
水道水の水まで生ぬるくなっている。
これは本格的に夏だな。
布団の中をあさり、クーラーのリモコンを見つける。
設定温度は24℃、ここまでしないとPCの熱気に負けてしまう。
まずはツイッターを開くため、一台のPCの前に座る。
「よし、『おはよー!』っと…」
朝の挨拶を呟く。
意味もなくふぁぼる奴、おはようリプをくれる奴がいる。
そして嫌味な『おそよーww』。
腹立つな。
意味の分からないTLは無視して作業に移る。
これは趣味だ。
自分で思うほどくだらない趣味。
この部屋にはラジオ、テレビがない。
そして部屋にネット回線を引くかわりに携帯の契約は切った。本体は残しているが。
よってPC以外はメディアに隔離された空間。
だがあえてPCを使った情報収集はしない。
それは何故かというと、俺が変態だからだ。
ごめんなさい。
そんなことは置いといて、他3つのPCで普段何をしているのかというと。
自作のソフトでいろんなご家庭のラジオやテレビの電波をジャックし、PCで閲覧する。
犯罪ですね、ごめんなさい。
ちなみに電波をジャックされた方の機器には影響が及ぶ心配はないため、気づかれることはない。
「うん、気づかれなきゃいいよな、うん」
今はそのソフトを利用した、あるものを制作している。
あと数時間で完成するだろう。
「よし、あとはこのポートを設置して…っと」
完成だ。
遂にできた。
空はもう暗い。
持っていた携帯の本体を改造して、内部に先ほどのソフトを移植させたもの、これは…
「んー、名前はどうしよう。携帯、電波ジャック…ジャックフォン…!ジャックフォンだ!」
はい、センスが来いですね、お疲れ様でした。
試しに動作確認を行うため、イヤホンを指して耳にあてる。
電源を入れるとノイズの嵐。
そこから少しずつ周波数を調整していき、近くを通っている電波にお邪魔させてもらう。
だんだんノイズから人の声に変わっていく。
すると、会見のようなカメラのフラッシュ音。
そして英語の上から翻訳された日本語が聞こえてくる。
これはどうやら外人の会見らしい。
声色から、どうやら話している男性は泣いているようだ。
情けない。
謝罪会見でもしているのだろうか、気になって耳を澄ます。
するとありえない言葉が耳に入ってきた。
『非常に残念なことですが、本日地球は終わります』
外に出た。
道路は予想以上の渋滞。
空もたくさんの鳥たちが、三日月を飲み込んで何処かへと向かっていく。
「ん、三日月が…」
何か違和感を感じたが、何も出てこないため大したことがないのだろう。
街の治安は次第に悪化していく。
この渋滞も何処へ向かっているのだろう。
地球が終わるというのに、どこへ行こうというのだろう。
とりあえず情報収集のために、先ほどできた例のジャックフォンを使う。
部屋のPCを使った方が楽だろうが、地球最後の日に部屋に籠るのはどうかと思う。
死ぬまでそこらへんを散歩でもしてようか。
イヤホンをつけ、周波数を合わせる。
が、なかなかノイズが消えない。
「ん、さっそく故障か?改良の余地があったか…くそだな、主に俺が」
頑張って周波数をいじる。
すると突然ノイズが消え、透き通った少女の声が聞こえた。
『生き残りたいでしょう?』
何だこれは、何かの番組ではないようだ。
誰かに語りかけているようなしゃべり方だ。
この少女の声は、何処か自信のありげな、嫌でも信じて見たくなるような、そんな声。
まずこの『生き残る』という単語は、今の俺には充分な興味を引いた。
半ば諦めていたが、やはり生きたい。
まだ死にたくない。
何か生き残る方法があるのなら…
耳を澄まして次の言葉を待つ。
すると、突然目の前をヘッドフォンとガスマスクをつけた少女が走り去っていく。
「おい!君!そっちはみんなが向かっている先の逆方向だぞ!」
ヘッドフォンしているため、当然聞こえるはずもない。
ガスマスクも異常だが、何よりも彼女の赤い目が気になった。
いったい何処へ向かうつもりなのだろう。
たった一人で。
するとイヤホンから声が聞こえた。
『あの丘を越えたら20秒で、その意味を嫌でも知ることになるよ。疑…ないで…耳…まs』
段々声が聞こえなくなっていく。
そしてイヤホンは完全にノイズに支配された。
「丘って行ったら…この渋滞の流れの逆方向か…」
先ほどの少女が向かった先も丘への方向。
彼女はヘッドフォンで何かを聞いていた。
そして段々聞こえなくなっていく声。
これは…
賭けてみるのもいいかもしれない。
スニーカーの紐を結びなおす。
「20秒先へ…!」
続く